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東京地方裁判所 平成3年(ワ)13124号 判決

甲・乙両事件原告

宗教法人幸福の科学

右代表者代表役員

中川隆

右訴訟代理人弁護士

安田信彦

佐藤悠人こと

佐藤裕人

古川靖

松井妙子

甲・乙両事件被告

株式会社講談社

右代表者代表取締役

野間佐和子

甲・乙両事件被告

森岩弘

右被告両名訴訟代理人弁護士

河上和雄

的場徹

右訴訟復代理人弁護士

山崎恵

成田茂

主文

一  甲・乙両事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求

一  甲事件

1  被告らは原告に対し、別紙(一)記載の謝罪広告を、表題の「謝罪文」とある部分並びに末尾の「株式会社講談社」「代表取締役野間佐和子」「週刊「現代」編集人森岩弘」及び「宗教法人幸福の科学主宰大川隆法殿」とある部分はそれぞれ明朝体一号活字とし、本文は明朝体五号活字として、週刊現代第二頁目に縦二四センチメートル、横一八センチメートルの大きさで掲載せよ。

2  被告らは各自原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一〇月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

1  被告らは原告に対し、別紙(二)記載の謝罪広告を、表題の「謝罪文」とある部分並びに末尾の「株式会社講談社」「代表取締役野間佐和子」「週刊現代編集人森岩弘」及び「宗教法人幸福の科学主宰大川隆法殿」とある部分はそれぞれ明朝体一号活字とし、本文は明朝体五号活字として、週刊現代第二頁目に縦二四センチメートル、横一八センチメートルの大きさで掲載せよ。

2  被告らは各自原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、「地上におりたる仏陀の説かれる教え、即ち、正しき心の探究、人生の目的と使命の認識、多次元宇宙観の獲得、真実なる歴史観の認識という教えに絶対的に帰依し、他の高級諸神霊への尊崇の気持ちを持ち、恒久ユートピアを建設すること」を目的とする宗教法人であり、原告代表役員である大川隆法主宰(以下「大川主宰」という。)を信仰の対象としている。

(二) 被告株式会社講談社(以下「被告会社」という。)は、雑誌及び書籍の出版を目的とする株式会社であり、被告森岩弘は、被告会社が発行する「週刊現代」の編集人である。

2  記事の内容

(一) 被告会社は、平成三年六月二四日発行の「週刊現代」平成三年七月六日号において、「内幕摘出レポート『三〇〇〇億円集金』をブチあげた大川隆法の大野望」という見出しの下に、以下の記述部分を含む記事を掲載した。

(1) 「私は入会して三年になりますが、宗教法人として認可(今年三月七日)されてから、おカネの動きが激しくなりました。この前、(東京・千代田区)紀尾伊町ビルの本部で、ちょうどみかん箱くらいの段ボールが数個、運び込まれているところに居合わせたんです。経理の人に『あれはコレですか』って現金のサインを指でつくったら、その人は口に指を当ててシーというポーズをした後、『そうだよ。でも、他の人にいってはダメだよ』といいました」(以下「本件第一記事部分」という。)

(2) 「六月一六日、広島で行われた講演で大川氏はこんなことをいっていました。

『最近、会員のなかに霊がわかるという人がでてきたようだが皆、そんな人に惑わされないように。もともと、その霊能力も私が授けたものなんだから。』

自分以外の者が勝手なことをしたり、注目を集めるのが許せないんです。」(元会員)(以下「本件第二記事部分」という。)

(二) さらに、被告会社は、平成三年九月一六日発行の「週刊現代」平成三年九月二八日号において、「続出する『幸福の科学』離反者、内部告発者の叫び」という見出しの下に、以下の記述部分を含む記事を掲載した。

(1) 草創期から携わっていた元役員は次のようにいう。

「もともと大川氏は口数も少なく、大人しいタイプでした。(中略)会員の動向は、その腹心たちから毎日上がって来る『業務報告』で把握していました。ただこの報告書が問題。ここで悪くいわれた人は、すぐ教団を追い出されました。みんな、この報告書をゲシュタポ・レポートと呼んでいました」(以下「本件第三記事部分」という。)

(2) 「銀座の高級クラブで一〇人くらいの側近を引き連れた大川氏と一晩、ヘネシーを飲んだことがあるけど、物事を論理的に話すヤツだなあという印象を持ったな。ただ、自分より上のヤツは持ち上げ、へつらうところがある。意外と気も小さいと思ったな。」というのはある画家(特に名を秘す)である。

今春、銀座の画廊で「観音様」をテーマにした個展を開いたとき、大川氏が一団に囲まれて会場に現れ四〇号の「観音様」の絵を五〇万円で買ってくれたというのだ。

その画家が、

「できるだけ無欲の精神で描こうと思っていますが、なかなかうまくいかないものです。煩悩の数だけ生きて、一〇九歳にでもなれば、納得のいく絵が描けるのかもしれません」

というと、大川氏は、

「私も宗教者として全く同じ気持ちです」

と答え、意気投合。

そして大川氏の側近から、

「銀座で一杯いかがですか。」

と誘われ、一緒に飲んだというわけだ。

ただ、行った店は大川氏の行きつけではなかったようで、店内でも大川氏は静かにグラスを傾けていたという。(以下「本件第四記事部分」という。)

3  名誉・信用の毀損

(一) 本件第一記事部分は、巨額の現金が『段ボール箱』に詰め込まれて原告の総合本部にこっそりと運び込まれていたとの事実を摘示することにより、原告が不正に大量の金を集め、あるいは原告が金儲けを目的としているが如き誤った印象を一般読者に与えるものであり、公益を目的とする原告の名誉を著しく毀損するものである。

(二) 本件第二記事部分は、原告の最も主要な活動である講演会の内容そのものを捏造し、更に大川主宰の人格を中傷するものである。

宗教団体の名誉を構成する重要な要素は教祖の人格と教義内容であるが、本件第二記事部分によれば、大川主宰の人格がいかにも貧しく、人を導く資格がないかのように記述されているのであるから、まさに原告の名誉の核心部分を毀損するものである。

(三) 本件第三記事部分は、原告がナチスの如き団体であるという虚偽の印象を、悪意をもって一般読者に与えようというものである。

(四) 本件第四記事部分は、原告を攻撃する意図のもと、「仏陀」(悟りたる者・覚者)とされる大川主宰及び原告幹部が、教義と全く異なる執着に満ち満ちた生活をしているという虚偽の事実、あるいは原告を私物化し、犯罪まがいの行為を行っているという虚偽の事実を摘示するものであり、原告の社会的評価を著しく毀損するものである。

4  被告らの責任

(一) 被告森岩は、「週刊現代」の編集長として、記者及び編集者が他人の名誉等を侵害する記事を「週刊現代」に掲載することを防止すべき義務があるのに、これを怠った。また、同被告は、本件第三記事部分については、原告の名誉を毀損する記事であることを認識していた。

(二) 被告講談社は、その被用者たる記者、編集者及び編集長が他人の名誉等を侵害する記事を自社の出版物に掲載することを防止すべき選任・監督上の義務があるのに、これを怠った。

5  原告の損害

(一) 本件各記事部分が掲載された「週刊現代」が頒布されたことによって、原告の社会的評価は低下し、原告の活動自体重大な支障を被った。

また、本件各記事が掲載されてから、「原告は金儲けを目的とした団体である」「会員を食いものにしている」と考える人が多くなり、原告の会員らが傷ついただけでなく、その伝道活動も著しく阻害された。原告の会員らが本件各記事は虚偽であるとの説明をしても、通常人には活字に対する無前提の信頼が存し、容易に会員らの説明は受け入れられず、原告の活動は無用の困難を強いられた。これら会員らの被った被害についても、原告の被った損害に関する事情として考慮されるべきである。

(二) 原告の右損害は到底金銭に換算することができないほど甚大であるが、あえて評価するならば各掲載誌につきそれぞれ二〇〇〇万円、合計四〇〇〇万円が相当である。また、右損害を回復するには金銭によるのみでは足りず、本件各記事の掲載誌である「週刊現代」誌上における謝罪広告を用いて名誉・信用の回復が図られることが必須である。

6  よって、原告は被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、四〇〇〇万円及びうち二〇〇〇万円に対する甲事件の訴状送達の日の翌日である平成三年一〇月八日から、うち二〇〇〇万円に対する乙事件の訴状送達の日の翌日である同年一一月二二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、原告の名誉回復のための処分として、別紙(一)、(二)記載の謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)のうち、原告が宗教法人であることは認め、その余は不知。同(二)の事実は認める。

2(一)  同2の事実は認めるが、3は争う。本件各記事は、次に述べるとおり、いずれも原告の社会的評価を何ら下落させるものではない。

(二)  本件第一記事部分は、原告が「ミラクル献金三〇〇〇億円構想」とのスローガンで献金を募り始め、多額の金を集めているとの事実を対象事実としているものであって、原告がその名誉を著しく毀損されたと主張する現金の運搬方法についての記事部分は、右対象事実中の一エピソードに過ぎない些細な事項に関する記述である。

また、右現金の運搬方法それ自体の記事だけに着目したとしても、現金をどのような方法で運ぼうが、原告に何らかの不正行為等があることを推測させるものではなく、運搬方法を摘示することがこの現金を取り扱った原告の社会的評価に関わるものとはいえない。

(三)  本件第二記事部分は大川主宰個人についての記述であって、原告についての記述は存在しない。また、大川主宰個人についてみても、本件第二記事部分は、大々的な集金活動を開始した原告の教祖である大川主宰の人となりを示す一エピソードとして、同人が信者に対して行った講演の要旨を簡潔に紹介したに過ぎず、何ら大川主宰の名誉を害するものではない。

また、「この教祖はなかなか自己顕示欲が強く、プライドも高い」「自分以外の者が勝手なことをしたり、注目を集めることが許せないんです」の部分は、原告とは無関係に、大川主宰を評価したものであるが、宗教団体の教祖は自らの説く教義が他のいかなる宗派の教義よりも優れていると主張するものであり、したがって、大川主宰について「自己顕示欲が強く」「プライドが高い」という評価を与えたとしても、原告はもちろん、大川主宰の社会的評価を何ら低下させることはない。

(四)  本件第三記事部分は、原告が法人化される以前の教団草創期に、①大川主宰が会員の動向を腹心から毎日上がる報告書で把握していたこと、②その報告書で悪く書かれた会員は教団から追い出されたこと、③その報告書は陰でゲシュタポ・レポートと呼ばれていたことを記述しているが、原告のような新興の宗教団体においては、その性格上、教祖を頂点とするピラミッド型組織が形成されるものであるから、その組織内において、頂点にある教祖が下部組織の信者の動静その他の情報を把握できるようなシステムが構築されることは当然であり、①の記述によって原告の外部的名誉が毀損されることはない。

また、新興の宗教団体がその組織を拡大しようとしている草創期においては、教祖を頂点とする組織作りと信者獲得のための組織的活動は必要不可欠であり、有用と思われる信者らを適材適所に登用するなどして組織拡大のために利用する一方、当該教団にとって害悪をもたらすと思われる信者を組織から排斥するといった組織作りは、教祖を頂点として一体性を求められる宗教団体の性格上当然のことである。したがって、大川主宰に対する報告によって悪く書かれた会員が排斥されるという②の記述は、新興の宗教団体においては極めて自然のことと理解される事柄であって、原告の社会的信用をいささかも低下させるものではない。

そして、③の「ゲシュタポ・レポート」との呼称は、本件第三記事部分前半において摘示された①及び②の事実に対する評価であるところ、「ゲシュタポ」とは、秘密性のある、制裁(教団からの排斥等)の発動を伴う原告の実態と、そのような報告を組織的に行っている団体を表す言葉として使用されているにすぎない。原告そのものを「ナチス・ドイツ」的となぞらえる用語としては、「ゲシュタポ」という言葉は既に風化している。したがって、「ゲシュタポ・レポート」という表現により、原告の名誉が侵害されることはない。

(五)  本件第四記事部分は大川主宰の私的な行状について記述したものであって、原告についての記述は存しない。

また、本件第四記事部分には、大川主宰が購入した絵画は「観音様」の絵であること、銀座の店は大川主宰の「行きつけではなかったよう」であること、大川主宰は店内で「静かにグラスを傾けていた」ことが記述されているにすぎず、これらの記述を含む本件第四記事部分は、原告の社会的評価はもちろん、大川主宰の社会的評価を下落させるものでもない。

3  請求原因4、5は争う。

三  抗弁

本件各記事部分が原告の名誉を毀損するとしても、これらは、いずれも公共の利害に関する事項について、専ら公益を図る目的で書かれたものであり、摘示された事実はいずれも真実であるか、あるいは被告らにおいて真実と信じるに足りる相当の理由がある。また、意見言明部分はいずれも正当かつ合理的な「論評」であり、本件各記事部分の掲載行為は、表現の自由の保障の下にあるだけでなく、信じない宗教に対する批判的活動として、信教の自由の保障の下にもある。したがって、本件各記事の掲載行為は違法性を欠くものであり、被告らは、名誉毀損に基づく不法行為責任を負うものではない。

1  公共の利害に関する事実

(一) 原告を含む新興の宗教団体は、その教義あるいは教祖の説教・講演、集会等の組織的かつ積極的布教活動により、心の平安、現世又は来世における救済を希求する多数の市民をひきつけ、これを信者、信徒に勧誘することが通例であり、その活動は多くの人々の幸福、救いの問題に関わっているだけでなく、壮大な本山、本部等の建立のための献金活動が組織的に行われたり、自ら政治活動を行い、政治的影響力を行使しようとする団体もあり、さらに、布教活動の過程でしばしば法律や他の社会規範との衝突が生じ、社会問題となることもあるため、新興宗教のあり方や活動は、現代社会における一重要問題として社会公共の関心事となっており、これについての自由な論評が許されなければならない。また、右のような新興の宗教団体にあっては、カリスマ性を有する教祖が強烈な個性と何らかの原体験に基づく説教や教義により多数の信者をひきつけるのであり、特にテレビ、大規模出版等のマスコミュニケーションの手段が布教活動の手段として容易に利用でき、大きな効果をもつ現代社会にあっては、教祖の言動の一つ一つが大きな影響力を有するから、教祖の言動、その集大成としての教えや教義、さらにはそのもととなる教祖の人となりも、当然に社会公共の重大関心事となる。

(二) 原告は平成三年三月七日に宗教法人として認可され、自称五六〇万人の信者を擁する新興の宗教団体として、信者らにより積極的な布教活動が行われているだけでなく、マス・メディアを通じての宣伝活動も行っており、「ミラクル献金三〇〇〇億円」と称して献金活動を行うなど、大きな社会的関心の対象となっていた。また、大川主宰は、原告の主宰者として自ら積極的に講演・執筆活動を行い、さらには、自らを「エル・カンターレ」(地上に降りたる仏陀)と名乗るなど、社会的関心の対象とされていた。

(三) 本件各記事は、このように社会公共の関心事となっている原告及びその教祖である大川主宰について記述したものであるから、そこに記載されている事実は公共の利害に関する事実である。

2  公益目的の存在

本件各記事は、新興の宗教団体として大きな社会的関心の対象となっていた原告の人的物的組織の実体を社会に公表して社会からの適正な評価を受けさせようという目的に出たものであり、専ら公益を図る目的で掲載されたものである。

3  本件第一記事部分についての真実性及び相当性

(一) 原告は「ミラクル献金三〇〇〇億円」のスローガンの下に多額の献金を求め、積極的な集金活動を行っていたものであり、その事実を記述した本件第一記事部分は真実である。

(二) 仮に本件第一記事部分が真実でないとしても、被告らは、次のとおりの取材を尽くした上でこれを真実と信じて記事として掲載したのであるから、本件第一記事部分に摘示した事実を真実と信じるに足りる相当の理由がある。

(1) 平成三年六月一四日、原告の機関紙月刊「幸福の科学」平成三年六月号に掲載された『ミラクル献金三〇〇〇億円構想』と題する記事を目にした「週刊現代」の秋元直樹編集者(以下「秋元編集者」という。)が担当副編集長と話し合った結果、原告の集金活動が特集記事の企画になり得るものとして、同副編集長は秋元編集者に対し、裏付け取材をするように指示した。

秋元編集者と記者一名は、同月一五日、原告の正会員を娘に持つ母親に取材し、原告が集金活動を行っていることを確認した。

別の担当記者は、同日、原告の西荻窪総合本部に「植福箱」と呼ばれる段ボール製献金箱が設置されているという情報を得、その献金箱の写真を確認した。

これらの取材の結果、同月一七日朝の「週刊現代」誌編集部の企画会議において、本件記事を特集記事とすることが承認された。

(2) その後、秋元編集者及び三名の記者は、本件記事のために以下の取材を含めて約三〇か所の取材を行った。

まず、「週刊現代」誌編集部の記者が、同月一九日、キャピタル東急ホテルのロビーにおいて、一時間以上にわたって、原告の正会員であり本部職員である人物から直接取材をした。同人は、段ボール箱数個が原告本部に運び込まれている現場で経理の人から右段ボール箱が現金であることを教えられた旨述べた。

また、秋元編集者は、同日、取材記者を同行して原告の広報課に出向き、原告の広報担当者に面談取材を行い、献金が本部に集まってきつつあるのか、どういう方法で集まってきているのか等を質問したが、同担当者は「広報課としては分からない」と回答するのみで、結局本件第一記事部分の摘示事実を否定する回答はなされなかった。

さらに、「週刊現代」誌編集長であった被告森岩は、同日の夜中、秋元編集者が取材した人物とは別の取材源から本件第一記事部分の裏取り取材をするよう編集次長に指示し、翌日の夕方には同編集次長から裏取りができた旨の報告を受けた。

(3) 被告らは、これらの取材により、原告が平成三年五月に「ミラクル献金三〇〇〇億円」構想を標榜し、大々的な集金活動を開始し、植福箱、植福たまご、植福の会等の方法で日常的な献金活動を行うほか、大黒天の布施と称して多額の献金者を求めたり、各種セミナー等の参加料の徴収、書籍等の販売、ご祈願料の徴収、金銭借入れ等の方法により、多種多様な集金活動を行っていたことを確認した。

4  本件第二記事部分の真実性及び論評の正当性

(一) 大川主宰は、平成三年六月一六日、広島で「正法とは何か」という講演を行った。右講演において、大川主宰は、他の宗教団体の霊言、霊現象、霊能力について批判し、自分自身の霊動現象能力がこれまでにない広大な力であると述べた後、三宝帰依について説明した。その中において、三宝帰依のうち「僧に帰依する」とは「僧団に帰依する」ことであるが、その意味が誤解されやすいとして、「これは『幸福の科学』でもまだ歴史が浅いために、組織としての確立が十分になされていないので、各地で混乱があるように私は見受けます。僧に帰依するとは、『幸福の科学』の中にあっても『幸福の科学』の中の講師に帰依することでもなく、局長や地方本部長や支部長に帰依することでもありません。こういう俗人的帰依のことは言いません。人に帰依するは仏陀に帰依する、これ一本です。人間に帰依してはいけません。」と言い、さらに、「例えば霊現象があちこちでもおきてまいりますから、そうしたところでいろんな霊現象をやり始めたりするような人が出てきますと、そこでまた別派活動になったり、また変な教団が生まれたりするようなもとになります。ここを間違わないで下さい。生きている人間に帰依してはなりません。」と講演している。

(二) 本件第二記事部分の大川主宰の広島講演における言動の記述は、右講演の聴衆が理解した講演内容を要約したものであり、真実である。

(三) また、本件第二記事部分における「自分以外の者が勝手なことをしたり、注目を集めることが許せ(ず)」「自己顕示欲が強く、プライドが高い」という大川主宰の性格等についての記述は、前記のような講演内容をもとにした新興宗教の教祖に対する論評として極めて正当なものである。

5  本件第三記事部分の真実性、相当性及び論評の正当性

(一) 原告が法人化される以前の教団草創期には、「活動推進委員報告」と題する書面が大川主宰に提出されており、同報告書で問題会員とされた会員を配置転換等によって実質的に辞めざるを得ない状況に追い込み、原告教団から排斥した事例が多数あり、右報告書は陰では「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたのであって、本件第三記事部分は真実である。

(二) 仮に本件第三記事部分が真実でないとしても、同記事部分に摘示された事実は、教団草創期から活動推進委員を務めていた会員などの取材源及び裏取り取材において直接確認された事実であり、被告らは、取材を尽くした上でこれを真実と信じて記事として掲載したのであるから、本件第三記事部分に摘示した事実を真実と信じるに足りる相当の理由がある。

(三) なお、本件第三記事部分中の「ゲシュタポ・レポート」との表現は、原告の前記報告書に対する意見言明部分である。

意見言明も、①当該記事が公共利害事項に関するものであり、②意見の基礎事実が当該記事に記載され、かつ、その主要部分について真実性の証明があるか、公表者が真実と信じることに相当の理由があるとき、又は既に社会的に知れ渡った事実であるときであって、③当該意見をその基礎事実から推論することが不当、不合理とはいえないときは、不法行為を構成しないものと解すべきところ、本件はこの要件を満たしている。すなわち、原告設立前の教団草創期に、会員個々人の動静等の情報が、秘密の報告書により、組織的に大川主宰に報告されており、大川主宰はその報告書による情報を基礎として会員の除名等の事実上の処分を行っていたという基礎事実は本件第三記事部分に掲載されており、かつ右基礎事実が真実であり、あるいは真実と信じることについて相当な理由があることは、さきに述べたとおりである。しかして、右の基礎事実から容易に推論される厳罰主義と秘密性を端的に表現するものとして、同報告書をゲシュタポ的であると評価することは合理的にして正当であり、原告教団の会員らも当時右報告書を「ゲシュタポ・レポート」と陰で言っていたことに照らしても、「ゲシュタポ・レポート」という表現について違法性は認められない。

6  原告の被告会社に対する業務妨害行為への対抗手段としての相当性

(一) 原告は、平成三年九月二日から、被告会社の本社、支社に対し、全国の信者を動員して電話及びファクシミリ送信を集中してその通信を遮断し、また、信者多数を被告会社本社社屋内に乱入させる等の業務妨害行動を開始し、これらの行動は同月六日まで続けられた。原告の行った右行為は原告に対する批判記事を封殺しようとする悪質な言論妨害であり、被告会社は、刑事告訴手続を含む法的手続をもってこれに対処したほか、原告に対する批判記事を掲載することにより、原告の暴力に言論で対抗したのである。

(二) 本件第三、第四記事部分を含む記事が掲載された「週刊現代」誌平成三年九月二八日号は、原告の被告会社に対する右業務妨害行為がなされた以後に発売されたものであり、掲載記事も右各業務妨害行為以後に執筆された。

(三) 被告会社は、マス・メディアの一翼として、公共的関心事項である原告の組織及びその実態について報道したものであるが、他方において、原告の行った違法行為の被害者でもあった。このような被害者たる被告会社が行った本件第三及び第四記事部分の掲載行為は、いずれも原告の名誉を毀損するものではなく、かつ、その記述は真実を公表するものであった。仮に本件第三及び第四記事部分の中に多少不適切な表現があったとしても、被告会社の同記事掲載行為は、原告の行った業務妨害のような悪質な不法行為とは全く異なり、行為として社会的に相当であり、かつ、その記述にも相当性があることは明白であるから、名誉毀損に該当するものではない。

7  信教の自由における宗教的寛容さと違法性の不存在

(一) 本件各記事は、積極的に対外活動を行っている新興の宗教団体たる原告又はその教祖に対する批判的言論であるところ、憲法第二〇条の信教の自由の保障の中には、ある宗教を信じることの自由、自己の信じる宗教を外部に対して表現行為等によって布教宣伝する自由が含まれるが、他方、宗教を信じない自由、信じない宗教に対して批判的言論を述べることも含まれているのであり、本件各記事の掲載は、信教の自由によって保障される批判的活動という側面を有する。

(二) そして、信教の自由の保障は、何人も自己の信仰と相容れない信仰を持つ者の信仰に基づく行為に対して、それが強制や不利益の付与を伴うことにより自己の信教の自由を妨害するものでない限り、寛容であることを要請しているというべきであるところ、右信教の自由における寛容さは、単に宗教団体や宗教者相互間だけではなく、信じない宗教に対して批判的活動を行う者と当該宗教団体等との間でも適用されるものというべきである。

これを本件についてみれば、強制や不利益の付与の伴わない表現行為として批判的言論が行われている限り、原告には、これを侵害行為と主張せずに受忍すべき「寛容さ」が信教の自由の保障の一つとして求められているのである。よって、本件各記事の掲載行為については、掲載された記述の内容が新興の宗教団体たる原告又はその教祖たる大川主宰に対する批判的記事であることから、信教の自由の保障の下においては、信じない宗教に対する批判的活動(布教宣伝活動)として違法性を欠くと解するべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁冒頭の主張は争う。

2  同1(一)、(二)は認め、(三)は争う。公共の関心事であるからといって、直ちに公共の利害に関する事実ということにはならない。

3  同2のうち、原告が社会的関心の対象となっていたことは認め、その余は争う。被告らは、宗教イコール悪という偏見に立脚し、急激に成長していた原告への嫉妬に基づき、原告を攻撃することを目的として本件各記事を掲載したものである。

4  同3(一)のうち、原告が「ミラクル献金三〇〇〇億円」と称して献金を求めたことは認め、その余は否認する。原告が「ミラクル献金三〇〇〇億円」の構想に基づいて具体的に活動したことはなく、多額の現金が集められている事実もない。また、原告の献金は「振込」という明朗な方法が勧められていたものであるから、段ボール箱で現金が搬入されたという部分も虚偽である。

同3(二)冒頭の主張は争う。同(1)の事実は不知。同(2)の事実中、「週刊現代」の秋元編集者と記者一名が、本件第一記事の掲載前、原告総合本部を取材のために訪問したことは認め、その余は否認する。秋元編集者と記者は、右訪問の際、段ボール箱の現金搬入という事実の有無について全く取材をしなかった。また、被告らが取材したとする、現金入り段ボール箱搬入の目撃者たる原告の正会員は架空の人物であり、水曜日の夜中に被告森岩から裏取り取材を指示された編集次長が翌日の夕方までに秋元編集者の取材源と異なる人物から事実を確認することは、物理的に不可能である。

5  同4(一)の事実は認め、同(二)は否認する。大川主宰は霊能力はもともと自分が授けたとは述べていないし、要約の仕方も正当といえない。同(三)は争う。

6  同5(一)のうち、原告設立前の教団草創期に「活動推進委員報告」と題する書面が大川主宰に提出されていたことは認め、その余は否認する。

同(二)は否認する。被告らのいう取材源は全て実在しない虚構のものであり、しかも全く裏付け取材を怠っている。同(三)は争う。

7  同6及び7は、否認ないし争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  当事者の地位及び本件記事の内容について

請求原因1(一)の事実のうち、原告が宗教法人であることは当事者間に争いがなく、甲第四四号証及び弁論の全趣旨によれば、原告がその主張のとおりの目的を有すること、大川主宰が信仰の対象とされていることが認められる。

同1(二)の事実(被告会社及び被告森岩の地位)及び同2の事実(本件記事の内容)については、当事者間に争いがない。

二  本件記事部分による原告の名誉・信用の毀損について

1  本件第一記事部分

(一)  右争いのない事実、甲第九号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、本件第一記事部分は、「週刊現代」平成三年七月六日号の三二頁から三五頁まで掲載された、「内幕摘出レポート『3000億円集金』をブチあげた大川隆法の大野望」との大見出しと「都内3000坪以上の敷地に建つ日本一ノッポの総本山ビルに2000億円、地方本支部と研修施設に1000億円―設立わずか4年半で公称114万人、大川“教祖”の個人納税額2億円余に急成長し、政界進出まで目論む新興宗教団体の内部で何が起こっているのか」というリード部分が付された記事の冒頭部分に、「こんな金額は前代未聞だ」との中見出しに続く位置に配置されていること、本件第一記事部分に続いて、「いま話題の新興宗教『幸福の科学』(大川隆法主宰)の中堅会員は、声をひそめて語った。ついに、あの『幸福の科学』が、巨額の資金集めを始めたというのだ。」という記述があり、次いで、「会員だけに配付される月刊『幸福の科学』6月号は早速、大川教祖の『ミラクル献金3000億円構想』なるものをブチ上げ、会員に献金を呼びかけた。この3000億円構想は、『地球ユートピア建設の道を拓く』ためのものとかで、2000億円かけて総本山ビルを建設し、1000億円で地方本支部、研修施設つくる(ママ)という。』として、「ミラクル献金三〇〇〇億円構想」の内容を紹介し、これに対する宗教評論家の「3000億円という金額は前代未聞であり、実現はなかなか難しいと思う」との論評を掲げた上、大川主宰の経歴、「幸福の科学」設立の経緯、宗教法人になる前の「幸福の科学」の収入源は主に大川教祖の出版物の印税であったが、平成三年三月に宗教法人としての認可を受けた後は、会員からの献金を募るようになり、会員による組織的な募金活動が行われている旨が記述されていることが認められる。

(二)  しかして、本件第一記事部分は、原告の中堅会員の談話という形式をとっているが、「宗教法人として認可されてから、おカネの動きが激しくなりました。」という表現によって、宗教法人認可後の原告による積極的な集金活動の事実を摘示した上、原告本部にみかん箱くらいの段ボール箱が数個運び込まれていたことが目撃されたこと、右段ボール箱が現金入りのものであり、その事実が秘密にされていることが、右の中堅会員と「経理の人」とのジェスチャー混じりの会話によって示されており、このような具体的な例により原告が集金活動をしているという事実に迫真性を持たせようとする構成になっていることが認められる。

(三)  これらの事実によれば、本件第一記事部分は、センセーショナルで一般読者の好奇心を刺激するような表現を用いて、宗教法人として認可された後の原告の積極的な集金活動の事実を摘示するものであり、これの具体的な例として原告本部に現金入り段ボール箱が搬入されていたという迫真的な事実を摘示しているものであることが認められるから、一般読者の通常の注意と読み方を基準として判断すれば、原告が巨額の資金集めに奔走しているかのような印象を与え、原告の社会的信用を低下させるものといわざるを得ない。

この点について、被告らは、原告本部への現金入り段ボール箱搬入という事実は本件第一記事部分全体の中では些細な一エピソードにすぎず、この事実が原告の社会的信用を低下させることはないと主張するが、前記のとおり、右の事実は、原告の積極的な集金活動という摘示事実に迫真性を与える重要な役割を担っている事実であり、単なる一エピソードということはできない。また、被告らは、現金の運搬方法についての記述によっては原告の社会的信用が左右されることはないと主張するが、本件第一記事部分を通読すれば、原告本部への現金搬入に段ボール箱が用いられたという行為態様そのものが原告の行為に否定的な意味合いを付加する効果を果たしていることが明らかであるから、原告の社会的信用を低下させないということはできない。

よって、本件第一記事部分については、右に判示した限度において原告の社会的信用を低下させたものといわざるを得ない。

2  本件第二記事部分

(一)  前記争いのない事実、甲第九号証の一ないし三、第一一、第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、本件第二記事部分は、平成三年六月一六日に広島県内で行われた講演会に参加した元会員が受けとめた大川主宰の講演内容の断片と、右元会員の「自分以外の者が勝手なことをしたり、注目を集めるのが許せない」という大川主宰に対する評価から構成されていることが認められ、このことからすれば、本件第二記事部分は専ら大川主宰についての記述であって、原告に対する記述でないことが明らかである。

(二)  原告は、本件第二記事部分は、「大講演会」という原告の最も重要な公式行事における大川主宰の発言を捏造したものであるから、大川主宰のみに関する記述ではなく、原告に対する記述でもあると主張する。しかしながら、誰についての記述であるかについても一般読者の通常の注意と読み方を基準として判断すべきところ、一般読者が本件第二記事部分を読めば、大川主宰について記述されたものという印象を持つことはあっても、原告についての記述として読むことはないと解されるし、右講演会において大川主宰が被告らの主張する(抗弁4(一))内容の講演を行ったことについては当事者間に争いがないところ、右の講演内容に照らすと、これを聴いた元会員の理解したところを要約摘示した本件第二記事部分の記述が、大川主宰の発言を捏造したものとまで認めることは到底できないところである。

また、原告は、右記事部分では、大川主宰の人格がいかにも貧しく、人を導く資格がないかのように記述されているとして、そのような人物を教祖として仰ぐ原告自体の名誉が毀損された旨主張するが、右記事部分を読む一般読者が原告の主張するような印象を受けるとは認められないから、原告の主張は失当であるというほかはない。

(三)  以上によれば、大川主宰個人についての記述にすぎない本件第二記事部分によって原告の社会的評価が低下したとすることはできず、原告の名誉が毀損されたということはできない。

3  本件第三記事部分

(一)  前記争いのない事実、甲第五号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、本件第三記事部分は、「週刊現代」平成三年九月二八日号の四二頁から四五頁まで掲載された、「続出する『幸福の科学』離反者、内部告発者の叫び」との大見出しを付した記事中において、冒頭の「ゲシュタポ・レポートとは」という中見出しを付した部分の一部をなすものであり、同年九月二日頃に行われた原告の会員らによる被告会社による抗議行動を、「デマ・中傷に満ちた電話・FAXジャックなどのイヤガラセ」で「およそ“宗教法人”のやる行為とは思えないひどいものだった」として、右行動を「市民運動」であると主張する原告及びその会員らに反論する趣旨の記述をした上、「彼らのいう『市民運動』を支える『幸福の科学』とはどういう教団なのだろうか。草創期から携わっていた元役員は次のようにいう。」として、右元役員の談話の形式で本件第三記事部分の記述をし、これを受ける形で、「当初からこの集団は“問題教団”になる危険性をはらんでいたのである。」と結んでいること、そして、右抗議行動が原告による意図的な妨害活動であることを示す、内部告発者から送られた「内部資料」をつかんだとして、その内容を記述した上、右抗議行動に対する法律学者及び他の宗教団体関係者の論評に続いて、「このままでは生活が破綻」なる中見出しの下に、原告の会員らの中にも右抗議行動への批判や脱会者があることを、具体例を挙げて紹介していることが認められる。

(二)  これらの事実によれば、本件第三記事部分は、原告の会員らによって行われた被告会社に対する抗議行動を批判する目的の下に、原告の宗教団体としての体質を問題にし、「ゲシュタポ・レポート」という否定的イメージを持つ比喩的表現を用いて一般読者の好奇心と注意を喚起する方法により、原告の草創期に行われていた内部統制の様子を記述したものと認めざるを得ないから、一般読者の通常の注意と読み方を基準として判断すれば、原告の社会的評価を低下させるものといわざるを得ない。

この点について、被告らは、新興の宗教団体における特殊性を強調して、原告のような新興の宗教団体の草創期においては、教祖を頂点とする組織作りのため、信者の動向を把握して、教団にとって害悪をもたらすと思われる信者を組織から排斥するといった活動が行われるのは極めて自然な事柄であり、そのような事実を摘示されたからといって原告の外部的名誉が害されることはないと主張するが、「ゲシュタポ」という言葉が、秘密性のある、制裁(教団からの排斥等)の発動を伴う原告の実態とそのような報告を組織的に行っている団体を表す言葉として使用されていることは、被告らの自認するところであり、一般読者の通常の注意と理解を基準としても、「ゲシュタポ・レポート」という言葉が否定的なイメージを持つ比喩的表現として用いられていることは否定できないのであるから、本件第三記事部分については、右に判示した限度で原告の社会的評価を低下させたものといわざるを得ない。

4  本件第四記事部分

(一)  前記争いのない事実、甲第五号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、本件第四記事部分は、「週刊現代」平成三年九月二八日号の前記記事の最後の部分で、「五〇万円の絵をポンと買って」という中見出しの下に、大川主宰の人となりを記述するものであり、「では、いったいどんな“素顔”をもった人物なのだろうか。」という文章に引き続き、ある画家が銀座の画廊で「観音様」をテーマにした個展を開いたとき、大川主宰が四〇号の「観音様」の絵を五〇万円で買ってくれたこと、大川主宰がその画家と銀座の高級クラブで一晩ヘネシーを飲んだことがあることなどを、その画家の感想を交えながら記述するものであることが認められ、これらよりすれば、本件第四記事部分は、専ら大川主宰の個人的行状についての記述であって、原告について記述したものでないことが明らかである。

(二)  この点について、原告は、同記事部分は大川主宰だけでなく原告幹部についても触れており、記載事実そのものも大川主宰の純然たる私的行状とは到底いえないから、大川主宰のみに関する記述ではなく、原告に対する記述でもあると主張する。しかしながら、本件第四記事部分の全文章から一般読者が通常の注意と読み方をもって得られる印象を基準として判断するならば、同記事部分は大川主宰の人となりを明らかにするため、個人としての行状を記述することにその主眼があることが明らかであるし、五〇万円の「観音様」の絵を買い、銀座の高級クラブで飲酒したからといって、原告を私物化したり、犯罪まがいの行為を行っているというような印象を一般読者に与えるとは認められず、それが私的行状といえなくなるものではないこともまた明らかである。したがって、大川主宰が原告の教祖であり信仰の対象であるという事実を考慮に入れて検討しても、本件第四記事部分の掲載によって原告の社会的評価が低下したとすることはできず、原告の名誉が毀損されたということはできない。

三  被告らの抗弁について

1  公共の利害に関する事実及び公益目的の存在

(一)  抗弁(一)及び(二)の事実については、当事者間に争いがない。

(二)  しかして、本件第一記事部分は、宗教法人認可後の原告による積極的な集金活動について記述し、その例証として原告本部に現金入りと思われる段ボール箱が搬入されていたことを記述したものであり、また、本件第三記事部分は、原告の草創期にいかなる内部統制が行われていたかについて記述したものであることは、さきに認定したところであり、いずれも、宗教法人として認可され、多数の信者を擁する新興の宗教団体として、信者らにより積極的な布教活動を行っているだけでなく、マス・メディアを通じての宣伝活動や「ミラクル献金三〇〇〇億円」と称して献金活動を行うなど、大きな社会公共の関心事となっていた原告について、そのあり方や活動を批判する記事中における記述であるから、各記事部分に摘示された事実は、公共の利害に関する事実であると認めることができる。

(三)  また、前記認定のような記事の内容に照らすと、本件第一、第三記事部分は、当時社会公共の関心事となっていた原告の組織や活動のあり方を社会に公表して社会からの適正な評価を受けさせることを主な目的として掲載されたものであると認めることができるから、公益を図る目的に出たものと認めるのが相当である。

この点に関して、原告は、被告らは宗教イコール悪という偏見に立脚し、急激に成長していた原告への嫉妬に基づき、原告を攻撃することを目的として本件各記事部分を掲載したと主張するが、本件全証拠をもってしても、かかる事実を認めるに足りない。

2  本件第一記事部分の真実性

(一)  原告が「ミラクル三〇〇〇億円献金」と称して献金を求めたことは当事者間に争いがなく、甲第九号証の一ないし三、乙第一号証、第一〇号証、第一九号証、第二七号証の一ないし三、第二八、第二九号証、第三二号証、第三五号証、証人秋元直樹の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、宗教法人として認可された直後の平成三年五月頃以降、その機関紙に総本山ビルの建設、地方本支部、研修施設の建設を目的とした「ミラクル献金三〇〇〇億円」構想を発表し、原告会員に対して、それまでと比べて際立って積極的な集金活動を行ったことが認められるが、段ボール箱で原告本部に現金が搬入されたという部分については、証人秋元直樹の証言及び被告森岩本人尋問の結果によれば、被告会社所属の記者に対し、原告の会員が、右現金運搬を目撃したと語ったことが認められるものの、本件全証拠によっても、右会員の言辞が真実に合致するものであるとは直ちに認めることはできない。

(二)  次に、甲第九号証の一ないし三、第一五号証の一、二、乙第一号証、第一〇号証、第三五号証、証人秋元直樹の証言及び被告森岩本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告らが本件第一記事部分を掲載するに至るまでの取材等の経緯について、以下の事実を認めることができる。

(1) 秋元編集者は平成三年六月一四日、原告と深い繋がりのあるGLAという宗教団体の会員と取材で会った際、『ミラクル献金三〇〇〇億円構想』と題する記事が掲載された月刊「幸福の科学」平成三年六月号を見せられた。同人は、このような三〇〇〇億円献金の目的、方法等について取材を通してレポートすれば、宗教団体として急速に成長し、大きな社会的関心を集めている原告の実態を明らかにできると考え、担当副編集長及び担当デスクと協議した。その結果、同副編集長は秋元編集者に対し、裏付け取材をするように指示した。

(2) 秋元編集者は、同月一五日、取材記者一名とともに、原告の正会員を娘に持つ母親に会い、約二時間取材した。この母親は、秋元編集者らの取材に対し、平成三年三月付けで原告から会員あてに出された全国支部展開・研修道場建設等のため献金を募る手紙を示しながら、同年六月になってから娘のお金集めの活動が非常に盛んになり、学校にも行かないで活動していると話した。

(3) 別の担当記者は、同日頃、原告の正会員と会って取材した。この会員は、同記者の取材に対し、原告の都内の支部で段ボール製の献金箱が設置されたことを話した。また、秋元編集者は、原告を取材する過程の中で、他のマスコミ関係者から「植福箱」と書かれた段ボール製と思われる献金箱が写っている写真を示され、原告西荻窪総合本部の写真であるとの説明を受けた。

(4) これらの取材の結果、同月一七日の「週刊現代」誌編集部の企画会議において、本件記事を特集記事とすることが承認された。

(5) これを受けて、秋元編集者及び三名の記者は、本件記事のために、以下の取材を含めて約三〇か所の取材を行った。

「週刊現代」誌編集部の記者は、同月一九日、都内のホテルのロビーにおいて、一時間以上にわたり、原告の正会員であり本部職員である人物から直接取材をした。同人は、右取材に対し、自ら直接体験したこととして、原告本部への段ボール箱搬入を目撃したこと、経理の人から右段ボール箱には現金が入っている旨を聞いたことなど、本件第一記事部分の記述に沿う話をした。

秋元編集者は、同日、取材記者を同行して原告の広報課に赴き、広報担当者に面談取材を行い、献金が本部に集まってきつつあるのか、どういう方法で集まってきているのか等を質問したが、同担当者は、「広報課としては分からない」旨返答した。

「週刊現代」誌編集長であった被告森岩は、同日夜、秋元編集者が取材した人物とは別の取材源から本件第一記事部分の裏取り取材をするよう編集次長に指示し、翌日の夕方には同編集次長から裏取りができた旨の報告を受けた。

以上の事実が認められ、これによれば、被告らとしては、原告の集金活動についての裏付け取材を尽くしたほか、原告本部への現金入り段ボール箱搬入についても、それを直接目撃した人物から取材していることが認められる。

(三) 以上によれば、原告が、宗教法人の認可を受けた直後の平成三年五月頃以降、その会員に対して、総本山ビルの建設、地方本支部、研修施設の建設を目的とする「ミラクル献金三〇〇〇億円」構想を打ち出し、それまでと比べて際立って積極的な集金活動を行ったという、本件第一記事部分の主要部分をなす事実については、真実であることの証明があったというべきであり、原告本部への現金入り段ボール箱搬入の事実については、厳密な意味における真実性の証明はないといわざるを得ないものの、被告らにおいて、それが真実であることを信じるにつき相当な理由があったものと認めるのが相当である。

したがって、本件第一記事部分の掲載については名誉棄損の違法性を欠くというべきであり、その旨の被告らの抗弁は理由がある。

3  本件第三記事の真実性

(一)  原告設立前の教団草創期に、「活動推進委員報告」と題する書面が大川主宰に提出されていたことについては当事者間に争いがなく、甲第四八、四九号証、乙第二ないし第五号証、第三五号証、証人高橋守、同秋元直樹、同高橋和夫の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告においては、大川主宰が全ての最終的な人事権を掌握していること、原告設立前の教団草創期において、最終的な人事権を握る大川主宰が、その腹心から、時々の会員の動静について「活動推進委員報告」などの形式で報告を受けていたことが認められる。しかしながら、その報告がもとで配置転換等によって実質的に辞めざるを得ない状況に追い込まれた会員がいた例があること、右報告書が陰では「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたことについては、証人高橋和夫の証言中にはこれを否定する部分があり、同証言部分の信用性を一概に否定することはできないし、他にこれが真実であるとまで認めるに足りる証拠はない。

(二)  次に、甲第五号証の一ないし三、第一七ないし第二〇号証、第四八、第四九号証、第五四号証、乙第二ないし第五号証、第一一号証、第三五、第三六号証、証人高橋守、同秋元直樹の各証言及び被告森岩本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告らが本件第二記事部分を掲載するに至るまでの取材等の経緯について、以下の事実を認めることができる。

(1) 平成三年九月二日以降原告の会員らによる被告会社に対する抗議行動が行われたが、「週刊現代」誌編集部は、右抗議行動を言論・出版活動に対する不当な妨害であるととらえ、九月二八日号の同誌に原告への批判記事を掲載することを決めた。原告については、それ以前においても継続的な取材が行われていたが、取材活動がさらに強化され、秋元編集者及び記者三名が、原告に関する記事のために、延べ約三〇か所を取材した。

(2) 「週刊現代」編集部は、同月五日頃、原告草創期の「活動推進委員報告」を入手した。右報告書は原告の草創期に実際に存在したものであり、大川主宰から「活動推進委員」に指名された幹部会員が作成する文書であるが、同報告書の中には、信仰上問題のある会員について指導・教示等の「内部監査」を行ったことの大川主宰への報告や、「霊障気味の人、長電話の人、問題ある団体に所属している人、教祖・拝屋タイプ等」の「問題児」についてのリスト(「いわゆるB・リスト」)作成を大川主宰が指示していることが記載されたものがあった。

(3) 秋元編集者及び記者は、同月八日、原告に草創期から携わり、役員の経験もある原告会員にその自宅で直接面接し、既に入手していた右「活動推進委員報告」を示して取材した。同会員は、取材に対し、大川主宰が、幹部から上がってくる業務報告によって個々の会員の言動、動向を把握していたこと、「活動推進委員報告」は右業務報告の一種であり、「ゲシュタポ・レポート」と陰で呼ばれていたこと、業務報告で悪く言われたことがもとで結局会員を辞めることになった人がいることなどを述べた。秋元編集者は、同会員に対し、それ以降も電話で三、四回、確認の取材をした。

(4) 秋元編集者は、同月一〇日頃、原告草創期に活動推進委員を務めた経験のある高橋守に直接会い、右「活動推進委員報告」を示して取材した。同人は、同報告書が「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたとは知らなかったが、それ以外の事実については前記会員の話を裏付ける話をした。

(5) 「週刊現代」の記者は、同日頃、原告正会員三名に面接取材し、報告書が陰で「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたことを含めて、前記会員の話を裏付ける供述を得た。

(6) なお、原告に対する取材は、同年八月末頃から取材が事実上拒否されていたため、行われなかった。

(三) 以上によれば、本件第三記事部分については、被告らにより十分な取材が行われており、原告設立前の教団草創期において、最終的な人事権を握る大川主宰が腹心から上がってくる「活動推進委員報告」などにより個々の会員の動静を把握しており、その報告がもとで実質的に辞めざるを得なくなった会員がいたこと、右報告書が陰で「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたことを含めた記事内容について、被告らがそれを真実であると信じるにつき相当な理由があったものと認めるのが相当である。

したがって、本件第三記事部分の掲載については名誉毀損の違法性を欠くというべきであり、その旨の被告らの抗弁は理由がある。

四  結論

以上のとおりであって、本件各記事については名誉毀損の成立要件を欠くというべきであるから、その余の点について判断を加えるまでもなく、原告の本訴各請求はいずれも棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官魚住庸夫 裁判官田中孝一 裁判官松藤和博は、転補につき、署名捺印することができない。 裁判長裁判官魚住庸夫)

別紙〈省略〉

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